「ナッシング・コンペアーズ・トゥ・ユー(愛の哀しみ)」はプリンスがあの人に捧げた曲だった。プリンスの専属レコーディング・エンジニアだったスーザン・ロジャースが語る楽曲秘話とは。
未発表だったスタジオ・ヴァージョンの「ナッシング・コンペアーズ・トゥ・ユー(愛の哀しみ)」が公開されたプリンス。多作なプリンスの専属のレコーディング・エンジニアとして、アルバム『パープル・レイン』から『ブラック・アルバム』まで、絶頂期のプリンスの音源をレコーディングし続けたスーザン・ロジャースが日本のために、「ナッシング・コンペアーズ・トゥ・ユー(愛の哀しみ)」の秘話を語ってくれた。
■■■「ナッシング・コンペアーズ・トゥ・ユー」はメロディも歌詞も感動的な楽曲ですが、収録しているときから、この曲は特別なもので、多くの人に愛されるという予感がありましたか?
スーザン:いいえ。だって他の曲も同じくらい素晴らしかったから・・・。例えば「Strange Relationship」とか「She's Always In My Hair」は私の大好きな曲だし、他にも結果的に『Around The World In A Day』に収録された「Raspberry Beret」、「America」、「Condition Of The Heart」など本当にすごい曲がたくさんあったしね。当時彼はそういう、信じられないほど素晴らしい曲を山ほど書いていたの。「ナッシング・コンペアーズ・トゥ・ユー」はその中の1曲だった。彼はすごい勢いで次から次へとレコーディングしていたから、プリンスにとってもこれは特にスペシャルな曲というわけでもなかったわ。
■■■この曲を聴いたとき、プリンスが特定の人物にささげた楽曲だと思いましたか?
スーザン:特に誰かにささげたという風には思わなかったけど、ある人の存在がヒントになっているかもしれない感じはしたわ。それはサンディ・シピオニという女性で、ごく初期の頃からプリンスの家で働いていたの。そもそも彼女はドン・バッツ(スーザンの前の、プリンスのレコーディング・エンジニア)のガールフレンドで、ハイスクールを出てすぐ、18歳の時にプリンスの家で働き始めたんだけど、あるときお父さんが突然亡くなってしまい、実家に帰ってしまったの。彼女の仕事は冷蔵庫の中に食べ物を入れて、洗濯をして、家の中をきれいにすること。「ナッシング・コンペアーズ・トゥ・ユー」の中に”All the flowers that you planted, In the backyard all died when you went away(きみが植えた裏庭の花はきみがいなくなって枯れてしまった)”という歌詞が出てくるんだけど、お花の世話をしていた君、というのは彼女のことなの。そうやって住み心地の良い家にすることが彼女の仕事だったのよ。彼女が突然実家に帰ってしまったあと、プリンスの機嫌が悪くなったことはすぐにわかったわ。家のことをきちんとやってくれる人がいなくなってしまったからね。だからサンディがいなくなってしまったことにインスパイアされて、彼はこの曲を書いたんじゃないかと思うの。当時彼は「サンディはいつ戻ってくるんだ?」とか「あとどのくらい不在なんだ?」っていつも聞いていたわ。彼女がいなくなって苛立っていたのよ。ある日、ウェアハウスで彼は突然ノートを持って別の部屋に行き、数時間後に戻ってきてそのノートをコンソールの上に置いたの。
最初の歌詞は”It's been seven hours and thirteen days since you took your love away (きみが愛を連れ去ってから、13日と7時間がたつ) ”だった。サンディに戻ってきてほしいんだって思ったわ。これはラブソングじゃないの。彼女はプリンスの恋人じゃなかったから。でもこの曲のインスピレーションになっているのはサンディだと思うわ。この曲の中には”I know that living with me baby Is sometimes hard, sometimes hard But I'm willing, I'm willing to give it one more try(俺と暮らすのがつらいこともあったはず、だけどもう一度やり直したいよ)”という歌詞もあるんだけど、当時プリンスの家に住んでいる唯一の女性はサンディだった。この曲は一緒にいた誰かがいなくなってしまったことを歌っているの。だから彼女からインスパイアされたという可能性があると思う。ただ、当時彼はスザンナ・メルヴォワン(ザ・レヴォリューションのギタリスト、ウェンディ・メルヴォワンの双子の妹)と付き合っていて、彼女はロサンゼルス、プリンスはミネソタに住んでいたからスザンナが恋しかったことも確かだと思うわ。
■■■プリンスはこの楽曲を自分のために書いたのでしょうか?それとも当初から、The Family (ザ・タイムの元メンバーが結成したバンド)のために書いたんですか?
スーザン:それはわからないわ。彼はこの曲を書くとすぐにThe Familyにあげたの。彼自身も誰のためかわからなかったんじゃないかしら。当時彼は自分のアルバムに収録するか、他の人にあげてしまうかを決める前に曲をレコーディングしたことがあったの。でも考えられるのは、当時彼はプリンスの名前ではあの曲をリリースしたくなかったんじゃないかと思うの。これはあくまでも私の想像だけど、多分彼はこの曲を聴いた人たちが持つ印象と、自分が人にこう思われたいという姿が一致しないと思ったんじゃないかしら。自分が誰かと一緒に暮らしていると思われたくなかったのよね。実際、当時彼は誰とも一緒に暮らしていなかったし、恋人に頼っているという部分はなかった。だからこれはThe Familyのポール・ピーターソンが歌うのがベストだと思ったんじゃないかしら。
当時誰かと一緒に住んでいると思われたくなかったプリンスが、2人の女性、サンディ・シピオニとスーザン・メルヴォワンを想いながら、書いたのではというスーザン・ロジャースの推理はいかがでしたでしょうか。ちなみにこの曲は84年の7月にミネソタ、エデン・プレイリーのクラウド・ドライヴ・ウェアハウスでレコーディングされています。バック・ヴォーカルにはスザンナ・メルヴォワン自身とThe Familyのポール・ピーターソンが参加し、スーザン・ロジャースがレコーディング・エンジニアを務めています。
【リリース情報】
「ナッシング・コンペアーズ・トゥ・ユー(愛の哀しみ)」
デジタル配信中
iTunes Storeはこちら
※ iTunes Store は米国及びその他の国々で登録されたApple Inc.の商標です。
さらにこの楽曲のビデオ・クリップでは、こちらも未発表映像となるプリンス&ザ・レヴォリューションのリハーサル映がフィーチャーされている。
この映像を見れば、プリンスがいかなる時もアーティストとしての自分と真摯に向き合っていた姿勢を感じ取ることができるだろう。
■5/25発売 7インチ・アナログ・シングル(輸入盤のみ)
A. NOTHING COMPARES 2 U (EDIT VERSION) [4:12]
B. NOTHING COMPARES 2 U (FULL LENGTH VERSION) [4:40]
【プリンス オフィシャルページ】
0コメント