ニール・ヤング【F's GARDEN -Handle With Care- Vol.15】

<F's GARDEN -Handle With Care- 第15回:野中なのか> 


ニール・ヤングの「感情」と「音」 
〜秋の夜長の「アフター・ザ・ゴールドラッシュ」〜


「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ<SHM-CD>」


人生は短いので、本題から入ります。 

ニール・ヤングのアルバム「アフター・ザ・ゴールドラッシュ」は人類史上に残る圧倒的な名盤だ、と。 

「んなこと、お前に言われなくとも誰でもわかっとるわ!」と大抵のロックファンは思うかも知れませんが、まぁ、続けさせて下さい。

ボク、このアルバム、大好きなんです。 

今回は全てのキャリアをすっ飛ばしてこのアルバムだけにフォーカスを当てます。 


少し歴史的背景から振り返りましょう。 

このアルバムが発表されたのは1970年。今から約40年前の夏の終わりの事です。 

この年の4月にビートルズが解散し、「きゃっはー!とにかく愛と平和だぜ!」という世界的なフラワームーブメントもひと段落して、「これから先、俺たちどこに行くんだろう」という先行きの見えない混沌とした時代の始まりでした。

この年の冬、ジョン・レノンは「夢は終わった」と歌いました。そんな時代です。 

(いきなりの余談ですが、ビートルズ解散後初のソロ・アルバム「ジョンの魂」はこのアルバムの影響をすごく受けていると個人的に感じています。レコーディングの時期を照らし合わせると、それを裏付ける事が出来るはずです。) 


当のニール・ヤングといえば自身も参加しているフォークロック界の四天王ユニット「クロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング」のファーストアルバム「デジャ・ヴ」が大ヒット中で世界中で「キャー!キャー!」言われていたはずです。

個人としては「祭りのあと」なんかでは無く、どんちゃん騒ぎの真っ最中だったわけです。 

彼は当時24歳。 

このアルバムを聴くと、成功の真っ只中に居ながらこんなにも複雑な感情を抱いていたのか、と驚きます。


一曲目の「テル・ミー・ホワイ」を聴いてみましょう。


ルックスと全く釣り合わない弱々しい感じを受ける独特のハイトーンボーカル。幾重にも重ねられたコーラスワーク。2本のギターだけのシンプルなアレンジ。


英語が全く分からなくても、何か捉えようの無い「せつなさ」のような気持ちについて歌っているのがわかると思います。

単純なラブソングでは無く、心の奥底にある行き場の無い感情です。 

歌詞はこんな感じです。 


「自分の本当の気持ちと折り合いをつけるという事は難しい事だよ。 やり直すのには歳を取ったし、諦めるには若すぎる」 

歌詞と曲調が本当にリンクしています。 


続くアルバムタイトル曲の「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」はピアノの上に不安定なボーカルが絡むなんとも切ない名曲です。

「君の言った事を考えていたんだ。  

全てがウソだったらいいなと思いながら」 

この曲はこれから始まる70年代に対する深い絶望を歌った曲だと言われています。 

そしてこの曲も歌詞と曲調にズレは有りません。 


次の「オンリー・ラヴ・キャン・ブレイク・ユア・ハート」からはバンドスタイルとなり、このアルバムはゆっくりと転がりだしていきます。

4曲目の「サザンマン」は当時のアメリカ南部の人種差別を痛烈に批判した歌です。前のめりの決して上手いとは言えないギターソロからいかに怒っていたのかが伝わります。

(この曲はレイナード・スキナードというバンドとの有名なエピソードがあるのですが、それはちょっと割愛します。)


「凹んでる場合じゃねーべ、絶望と共に生きてゆくんだ」と歌う孤独と希望の入り混じったような奇妙な曲構成のM7「ブリング・ユー・ダウン」、終わった恋人との関係を2羽の鳥に例えたゴスペルチックなM8「バーズ」。

全ての曲が、その時の感情に寄り添うように音で表現出来ているアルバムです。



ニール・ヤングは時折、スタイルがコロコロ変わるタイプのアーティストだと揶揄されたりします。

長いキャリアの中でテクノに走ったり、ロカビリーにいったり、ギターを歪ませたり。

悪く言うと、表現のスタイルに節操がない。 

正直、作品にはハズレも多いです。 

しかしここで思うのです。 


単に音楽的なスタイルを借りてきているのでは無く、まず「感情」があって、その「感情」に一番近い音を探していくタイプの音楽家なのではないか、いうことに。

ニール・ヤングの長く起伏に富んだキャリアはその「音」の探求の歴史だと思っています。


なので「感情」と「音」がピッタリと合った表現を出来た時はスゴイのです。

このアルバムはそれが成立しています。 

全ての音楽家はそうあるべきです。 

月に持って行っても良い大名盤だと思っています。 


「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ<SHM-CD>」


現在、ニール・ヤング(72歳)は女優のダリル・ハンナって人との交際を公表しています。 この女優さん、映画「ブレードランナー」で主人公に後ろから豪快に撃たれて死んじゃうエキセントリックな金髪クローン役を演じているのですが、なんかねー、ギャップがあり過ぎて全然2人が一緒にいるところが想像できないんすよね、、、、。この感情を「音」で表したらどんな感じになるのでしょうか、、(ここで文章は冒頭に戻り、無限ループへ、、、) 



野中 なのか 

コンサート業界勤務です。 

 誰か友達になってください。 


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