宮治淳一のコンピ大好き Vol. 9

私がこの5年、ジャパンオリジナルのCDコンピレーションとして監修、選曲してきたナゲッツ・シリーズの最新版2020年3月25日リリースの2枚のうちもう1枚『TOGETHER – WARNER POP ROCK NUGGETS VOL. 13』から、これは!という曲を御紹介。


『トゥゲザー~ワーナー・ポップ・ロック・ナゲッツ Vol.13』


Pat Shannon「Run To Him」

Written by Gerry Goffin, Jack Keller

Prod. by Dick Glasser

Arr. by Artie Butler

WARNER 7237, Oct. 1968


これまた嬉しい世界初CD化。パット・シャノンは本名パトリック・グラッサー。当ナゲッツ・シリーズに頻繁に登場するプロデューサー、ディック・グラッサーの兄弟。オハイオ州カントンのグラッサー家が男5人女6人の11人兄弟だそうだが、パットはディックの弟のようだ。ディックがディック・ローリー名義で歌手デビューしたのが1956年7月。一方のパットは兄を追って58年1月デッカ・レコードからデビューしている。

ちなみに残りのボブ、テッドそしてジェリーの3人の弟のたちはコーラス・グループ「THE THREE G’S」を結成58年夏大手コロムビアと契約、ファースト・シングル「Let’s Go Steady For The Summer」を全米シングル・チャート55位まで上るヒットを放った。パットのデビュー曲「メイベル」はヒットしなかったがそのB面「ノック・ノック(フーズ・ゼア)」(ナッシュヴィル録音、バックはアニタ・カー・シンガーズ)は70年代FENの東京制作オールディーズ番組で聞いたことがあるからローカル・ヒットはしたのかもしれない。パットはデッカから60年までに5枚のシングルを出すも何も起きなかった。そして8年の沈黙を破りワーナーからリリースした曲が『ソフト・ロック・ナゲッツVol.1』収録の「キャンディー・アップル、コットン・キャンディー」だった。65年にワーナー・ブラザーズのハウス・プロデユーサーになりエヴァリ・ブラザーズ、ヴォーグス、フレディー・キャノンら人気アーティストを担当した兄ディックのコネ再デビューであったに違いない。

本作はそれに続くワーナー2作目。曲はゴフィン=ケラーの作品でオリジナルはボビー・ヴィー&ザ・ジョニー・マン・シンガーズで62年2位を獲得した名曲。パットはボビーをより甘くした歌声でアーティ・バトラーの繊細かつ重厚なアレンジとうまく溶け込んでいる。何より曲がいい。ところがこれもヒットせず。しかし翌年素早くUNIへ移り12月最初のシングル「バック・トゥ・ドリーミン・アゲイン」(ケニー・ノーラン作)がなんとか103位まで上がり、念願のアルバム・リリースにこぎつけた(プロデューサーはワーナを辞めフリーランスになったディック・グラッサー)。オハイオ州の田舎から出てきたグラッサー兄弟5人の謎はまだまだたくさんある模様。

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