【WML×MLC連動連載企画 最終回】 ドクター・ジョン『イン・ア・センチメンタル・ムード』『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より

ドクター・ジョン『イン・ア・センチメンタル・ムード』 

新刊『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より

3月29日に発売になった新刊『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』は、1960年代からブルー・サム〜A&M〜ワーナーなどで数多くの名盤を手がけたプロデューサー、トミー・リピューマの評伝です。著者は自らもオルガン/キーボード・プレイヤーとしてジャズ/ポピュラー音楽界で著名なベン・シドラン。すでに複数の著作も上梓している作家としての横顔も持つ彼が、トミー・リピューマの人物像を軸に、音楽業界の裏側や名盤の舞台裏を包み隠さず描いた一冊です。

そして本連載は、短期集中で毎回アーティスト/作品単位でのテーマを取り上げ、同書からそれにまつわる部分をご紹介していこうというもの。同時に、トミー・リピューマが多くの作品を残したワーナーミュージックのウェブサイト「ワーナーミュージックライフ」(WML)と「ミュージック・ライフ・クラブ」(MLC)と連動した連載として別々のテーマを取り上げ、双方で同時に展開。両方同時に読むことで倍楽しめる!ことを目指しました。最終回となる今回は ドクター・ジョン『イン・ア・センチメンタル・ムード』を取り上げます。

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ドクター・ジョン『イン・ア・センチメンタル・ムード』は、トミー・リピューマがドクター・ジョンをワーナー・ブラザーズ・レコードに迎え、制作された89年リリースの作品。『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』でも、繰り返し語られているように、トミー・リピューマとドクター・ジョンは長年の付き合いで、特別な関係だった。見事このアルバムはグラミー賞を獲得した。またアルバム収録の「キャンディ」はドクター・ジョンのライヴでも、頻繁に演奏された。 以下は『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』の本文より。

ドクター・ジョン『イン・ア・センチメンタル・ムード』

 それから数日後、トミーはLAでの会議に参加していた。「ワーナーでは毎週月曜日に会議室でランチ・ミーティングが開催されていた。社内の部長全員がバーバンクのどこかのデリから取り寄せた昼食を囲み、社長のモーが誰彼かまわず、『近況を聴かせてくれないか』と声を掛ける。そして、営業にせよ宣伝にせよ、部門を問わずその場にいる担当者から大げさな話を聞かされるんだけれど、その番が僕に回ってきた時、マックとの企画で興奮していた僕は、『えーと、実は今回ドクター・ジョンとスタンダードのアルバムを作るつもりで』と言った。モーと一緒に仕事をしてきて、僕はそれまで彼から一度もA&R部の連中の発表に懐疑的な意見を聞いたことがなかったのだけれど、例外が一度だけ、それがこの時だった。彼曰く、『あ、そうなの。で、どこのレーベルから出るんだい?』」
 しかしトミーはそんなことにはまったくめげず、かまわず『イン・ア・センチメンタル・ムード』というアルバムをマックとともに制作した。このアルバムは多くのポップ・アーティストたち (ロッド・スチュワートやリンダ・ロンシュタットのように) がのちに同じ道を歩むことになる〝スタンダード・アルバム〟の先駆けとなった。そしてこのマックのレコードは大成功したが、それはトミーが提案したマックとリッキー・リー・ジョーンズのデュエットに負うところが大きかった。
 「僕は、マックとリッキーにはなにか特別なものがあるとわかっていた」トミーは言う。「だからこそ紹介しようと思ったんだ。でも一緒に録音しようと思ったのはずっと後のことだけれど」。そんなわけで、リッキーをホライズンに契約しようとしたことやレーベルを失なったことなど、すべてのごたごたの末、トミーは借りを返すことができた。トミーはマックとリッキーの「メイキン・ウーピー」を録音し、それが大ヒットとなったのだ。そのレコーディングは、ふたりの即興の掛け合いが織り込まれ、たったワン・テイクで完成した。それは極めて自然な仕上がりだった。そして、グラミーを受賞した。


【WML×MLC連動連載企画】『トミー・リピューマのバラード  ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語』より

第1回 MLC・2021.05.07 フィル・スペクター “サウンドの壁” 

第2回 WML・2021.05.07 マイケル・フランクス『アート・オブ・ティー』 

第3回 MLC・2021.05.14 ザ・ローリング・ストーンズ『タイム・イズ・オン・マイ・サイド』

第4回 WML・2021.05.14 ジョージ・ベンソン『ブリージン』

第5回 MLC・2021.05.21 モンタレー・ポップ・フェスティバル──ザ・フー、ジミ・ヘンドリックス

第6回 WML・2021.05.21 ボブ・ジェームス&デイヴィッド・サンボーン『ダブル・ヴィジョン』

第7回 MLC・2021.05.28 デイヴ・メイスン『アローン・トゥゲザー』

第8回 WML・2021.05.28 マイルス・デイヴィス『TUTU』


トミー・リピューマのバラード

ジャズの粋を極めたプロデューサーの物語 


ワーナーミュージック・ジャパン  

AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。貴重な写真の数々を掲載したブックレットを収録した、音楽の自叙伝ともいえるCD3枚組45曲収録の楽曲集。
アメリカの音楽界だけでなく、日本のポップス・ミュージック・シーンにも多大な影響を与え、AOR、シティ・ミュージックの先駆者である今は亡き名プロデューサー、トミー・リピューマ。グラミー賞に33度ノミネートされ、5度受賞。彼のプロデュースしたアルバムは7,500万枚以上の売り上げを記録している。彼が携わったImperial、A&M、Blue Thumb、Warner Bros.、A&M/Horizon、Elektra、GRP/Verveというすべてのレーベルから、彼が手掛けた代表的な楽曲を収録した、未亡人公認のオムニバスCD。ジョージ・ベンソン、マイケル・フランクス、マイルス・ディヴィス他アーティストの数々の名曲を収録。AORファン、フュージョン・ファン垂涎の貴重な写真を収録したブックレットが付いた、3枚組CD。 ブックレットには、マイルス・デイヴィス、マイケル・フランクス、ダイアナ・クラール、ドクター・ジョン、サンドパイパーズ、クロディーヌ・ロンジェ、ニック・デヵロ、アル・シュミットなどと撮影された、音楽史的に大変貴重な写真の数々を収録。  

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