ザ・バンド【F's GARDEN -Handle With Care- Vol.3】

音楽業界ブログリレー「F's GARDEN -Handle With Care-」 前回のDJ GONさんからバトンを受け継ぎました「野中なのか」です。 ジャンル、年代にとらわれず、好き放題に書いてゆきます!押忍! 



<F's GARDEN -Handle With Care- 第三回:野中なのか>


ザ・バンドが最後に見た夢
〜リアルと夢気分のライブ・ドキュメンタリー〜
公開40周年 映画『ラスト・ワルツ』 


ザ・バンド、最後のライブの模様を収めたドキュメンタリー映画『ラスト・ワルツ』が公開40周年を記念してデジタル・リマスターされ、しかも最大音量にて上映されると聞き、「これは行くしかない!」と映画館に足を運びました。


そもそもこの映画、「伝説の」という形容詞が常に頭につく「ロックファンなら一度は見ないとダメでしょ」的な一種の「呪い」のような映画なのです。


「ラスト・ワルツ」予告編


ザ・バンドはカナダ人4人、アメリカ人1人の1967年結成の「ド渋な」アメリカン・ミュージックを演奏するバンドです。

ややこしくも立派なバンド名ですが、「そのまんま、気取らずに行こうぜ」という気持ちの表れかも知れません。 


メンバーは 

リヴォン・ヘルム( Ds, Vo ):この人だけアメリカ人です(南部出身) 

ロビー・ロバートソン( Gt, Vo ):当時のバンドのリーダー的存在でメインのソングライターです 

リック・ダンコ( Ba, Gt, Vo ):ロック好きの兄ちゃんってルックスです 

リチャード・マニュエル( Key, Vo ):寝ながらインタビュー受けてます 

ガース・ハドソン( Key, Sax ):岩みたいな顔してます 


デビュー当時はメンバー全員20代半ば。なのに演ってる音楽とルックスは泥臭いド渋の中のド渋。古き良きアメリカのルーツミュージックをベースにしたオリジナル曲で登場しました。 

しかもメンバーの大半がカナダ出身ですから、当時の人達は「アメリカ人よりアメリカ人やんけ!」と驚いたそうです。(ま、歌舞伎の「女形」が「女性よりも女性らしい」って感じですかね。) 


当時は世界的にサイケデリックムーブメントの真っ只中で、ロックンロールは今よりも反抗的な音楽でしたから、いきなり「チョビヒゲ&丸メガネ」の「農家のおっさんスタイル」での登場はさぞインパクトがあったかと思います。 

(私、セカンドアルバムのジャケットにはブッ飛びました。「加トちゃんいるじゃん!」と。) 


このバンドが世間に注目されたきっかけは、デビューの少し前、当時「フォークの神様」と呼ばれていたボブ・ディランのバックバンドに抜擢された事です。(コンサート・ツアーは全米、オーストラリア、ヨーロッパと続きますが、エレキギターがギンギンのバンドサウンドは「フォークのディラン」が好きなファンにとっては受け入れがたく、各地ブーイングの嵐で、ドラムのリヴォンさんは耐えきれずに途中でツアーをバックレます。)


メンバー3人がメインボーカルを取る事が出来て、色々な楽器を演奏できるという「理想形」のようなバンドでしたがメンバーが集まって約16年、徐々にそのバランスが崩れてゆきます。


そしてリーダーのロビー・ロバートソンの呼びかけで「俺らのルーツはバックバンドだから、最後に豪華なゲストを呼んでコンサートをやるよ〜」と1976年11月25日にザ・バンドのラストライブが行われました。その様子を記録したのが映画『ラスト・ワルツ』です。



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その豪華なゲストとは、ディランをはじめ、エリック・クラプトン、ニール・ヤング、ジョニ・ミッチェル、ヴァン・モリスン、マディ・ウォーターズ、ドクター・ジョン、リンゴ・スター、ロン・ウッド他という信じられないようなメンツ。しかも監督は当時『タクシードライバー』で大ブレイク中のあのマーティン・スコセッシ!

「ありがたや〜ありがたや〜」と思わず映画館のイスに正座しそうになります。



自分が初めて見たのは今からもう随分前の大学生の時です。その時は

 「ボブ・ディランってこんなにステージで動くんだ。」とか 

「ニール・ヤングよ、ジョニ・ミッチェルを触りすぎだぞ。」とか 

「クラプトンの手元を大きく映してくれて嬉しいじゃん。」とか 

「う〜ん、ニール・ダイアモンドの梅沢富美男的フレーバー」とか

「えっ?リンゴとロニーの出番ってこれだけかい!」なんてボンヤリと思っていたはずです。 

言わばスーパーレジェンド達の夢の共演って事で、正直、バックバンドのド渋な演奏はあまりよく解りませんでした。 


しかし、この映画、何度見ても良いのです。なぜか飽きない。ジワジワと心にくる。 やはり40年間、「伝説」とされてきただけの事はあります。 そして繰り返すうちに当時のメンバー間の対立のようなものが解るようになってきました。 


時代が大きく変わろうとしている1976年です。 

「ロックはもう巨大なビジネスに変わってゆくのだからドサ回りのツアーを辞めたい。」と一方的に主張するリーダーのロビー・ロバートソン。 

「今日も明日も旅して演奏して美味い飯が食べられれば良いじゃん。」という考えの他の4人。 

どちらの主張も正しく、そしてこの映画がロビー側の視点から描かれているのがまた切ないのです。

(ロビーは当時すでにバンドのほとんどの権利を一人で持っていたそうです。この映画で彼一人、メンバーの中でメイクをしています。) 


この映画の冒頭、スタジオでビリヤードを楽しむメンバーを捉えた印象的なシーンがあります。

ゲームの内容はカットスロートという「他人の球を蹴落として、最後に自分の球が残ったら勝ち」というバトルロイヤル的な勝負です。もしかしたら監督は脱落するビリヤードの球に、時代の波に取り残された4人のメンバーを重ねたのかも知れません。う〜ん、ニクい!せつない!そして残酷だぞ!スコセッシ!


実際の「ラスト・ワルツ」は大成功でした。

ケンカしている相手と第三者が入っている時間だけコミュニケーションを取る事が出来たという経験は誰しもあると思います。そんな感じに似た緊張感のある演奏が最高なのです。それが喜びも悲しみも共にしたディランがボーカルならなおさらです。メンバー全員、半ばヤケっぱちのような最高のグルーヴがここにあります。

その気持ちが伝わったのか、当日ディランはステージ上でいきなり予定に無かったアドリブをブッ込みます。バンド最後の姿を永遠にフィルムに残そうと思ったのか解りませんが、すでに1曲目に演奏した「連れてってよ」という曲をもう一度演奏し始めるのです!

(1回目の演奏は契約上の理由からカメラは回っていませんでした。) 

この曲はディランとザ・バンドが出会って一番最初に演奏した曲だそうです。 ディラン兄貴のいきなりのヤンチャに戸惑いながらも即座に応えるメンバーの笑顔はこの映画の名シーンのひとつです。 



映画の最後は出演者全員での名曲「アイ・シャル・ビー・リリースト」の大合唱です。バンドとそれを囲むミュージシャン達が本当に嬉しそうに笑っています。

その表情のなんと素晴らしいことか。こうして「ラスト・ワルツ」は幕を降ろします。


解散後の各メンバーの活動は随分と地味なものになりました。 類稀なるソングライティングの才能を持つロビー・ロバートソンの「頭脳」と、それを表現する「肉体」の部分のサウンドのどちらが欠けてもダメだったのかも知れません。 


このバンドでボーカルを取っていた3人はすでにこの世には居ません。僕らは2度とザ・バンドのライブを生で見る事は出来無いのです。それはとても残念な事ですが、あの夜、彼らが見た最後の夢はこの素晴らしい映画とサウンドトラックの中に確かに残っています。 

ザ・バンド、最&高! 


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※『ラスト・ワルツ』公開40周年記念上映が4/28(土)から角川シネマ有楽町でもスタート!

このほか、全国順次公開となります。詳細は映画の公式サイトをご覧ください。 

映画『ラスト・ワルツ』公式サイト:https://lastwaltz.net-broadway.com/




野中なのか

コンサート業界勤務です。 

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