アラニス・モリセット『ジャグド・リトル・ピル』【F's GARDEN -Handle With Care- Vol.9】

都内で観測史上初の40℃超えを記録した2018年、夏。 

皆様、どんな夏を過ごされていますでしょうか。 


<F's GARDEN -Handle With Care- 第九回:野中なのか>


ブチギレ姉さん、髪を振り乱して元カレへの不満を歌って大ヒット。 
アラニス・モリセット『ジャグド・リトル・ピル』 


「Jagged Little Pill 2015 remaster / ジャグド・リトル・ピル 2015リマスター・エディション」

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アラニス・モリセットの登場は衝撃的でした。 

1995年、今から23年前の夏の出来事です。 

初めて触れたのは世界デビューシングルの『You Oughta Know(ユー・オウタ・ノウ)』のミュージックビデオです。


Alanis Morissette - You Oughta Know (OFFICIAL VIDEO)

 

幼いボクはその時、こう思いました。 

「この人、メチャメチャ怒ってる、、、」と。 


それは荒野のど真ん中にある遺跡のようなところで、真っ赤な口紅をした黒髪ロングのいいオンナ風女性がコワモテ男性バンドを従え、髪を振り乱して絶唱するという当時では非常にインパクトのあるビデオでした。

途中、黒いキャミソールから白のスーツへの謎のお着替え。(今、見返すと「もう男にコビは売らねーぞ」って事ですかね。)カメラを睨みつける眼差しは今見てもとても怖いです。 だけど何よりも曲と声が良かったのです。 

語るように入るイントロから爆発するサビへと向かう曲構成。うねるようなどこまで伸びのある歌声。時代を反映したオルタナサウンド。

そしてサビの終わりの「You! You! You!」というアシカの鳴き声のような歌唱法。 こんな曲は今まで聴いた事が無かったのです。 


当時、マドンナが主宰するマーヴェリック・レコードからワールドデビューする鳴り物入りのカナダ人女性シンガー、という触れ込みでしたから「またスゴイのが出てきたぞ、」と世間的にも盛り上がっていたように思います。

しかもバックを支えるのはその時、アメリカオルタナミュージックの先頭に立ってイケイケだったレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー(ベース)とデイヴ・ナヴァロ(ギター)です。 

(注・ビデオは別のメンバーです) 


リスナーは「ああ、これでオレたちはニルヴァーナの深い悲しみから少しは解放されるのか、、」と思っていたのかも知れません。

急いでデビューアルバムの『ジャグド・リトル・ピル』を買いに行き、和訳の歌詞カードを見てこれまた驚きました。

「これって自分を捨てた男への赤裸々な恨み節じゃん、、」と。


そのまんま訳すとあまりにお下品ですので以下、自主規制を入れて意訳すると・・・


「ワタシから乗り換えて新しい恋人ができて良かったね〜。 

でもよー、結構、歳いってんじゃん、そのオンナ。 

私たち、結構、色んなとこでイチャこいてたよね、しかも結構ハードに。 

そのオンナともそんなコトやってんの?どーせワタシを思い出してんだろーが。  


変わらない愛とかテキトーなコト言って。 

自分だけ幸せになるなんてフェアじゃない。 

アンタの顔面にガツンと一発。 

ワタシの苦しみを思い知るがいい! 

天誅!」 


幼いボクはその時、こう思いました。 

「こんなコトを髪振り乱しながら歌ってたんだ、、」と。 


しかも後に「この曲ってオレの事を歌ってる気がします。。なんかすみません。。肯定も否定もしないけど。。」とモデルとなった実際の元カレ俳優も登場し、「なんだかスゴい事になってる!」と思ったものです。


このデビューアルバムは売れに売れ、全米で1600万枚を売り上げる大ヒット。当時のアメリカの総人口は約3億人ですから、なんと20人に一人が持っていた計算となります。結果的にグラミー賞の4部門を受賞する90年代にもっとも売れたアルバムとなりました。


それもそのはず、このアルバムは『ユー・オウタ・ノウ』以外にも名曲が満載なのです。 

当時はセンセーショナルな歌詞が話題となりましたが、キャロル・キングの『つづれおり』にも似た等身大の女性の気持ちを描いた名盤だと思っています。 


「今は不幸かもしれないけど明るく生きていきましょう。片手はポケットかもしれないけど、もう片方でピースサイン」と前向きに歌う『ハンド・イン・マイ・ポケット』


Alanis Morissette - Hand In My Pocket (Official Music Video)



「宝くじに当たった爺さん、次の日に死んじゃったー。 

せっかくの結婚式の日にどうして雨なのよー。 

ナイフが必要なのに、目の前に1万本のスプーンかよー。」と人生の抱える矛盾の悲喜こもごもを歌った『アイロニック』 


Alanis Morissette - Ironic (OFFICIAL VIDEO)



「人生に起こることは全て生きるヒントとなるでしょう」と自分のアイデンティティに悩む人たちを勇気づけた『ユー・ラーン』


Alanis Morissette - You Learn (OFFICIAL VIDEO)


アップテンポ、ミドルテンポ、バラードがある非常にバランスの取れた名盤です。しかもどの曲もアラニスのボーカルを十分に活かしたアレンジで素晴らしいです。


その表現スタイル、歌詞や歌唱法も含め、「アラニスが居なかったらその後の女性シンガーの形は大きく変わっていただろう」と思わず断言したくなる程です。そしてそれは事実です。


まだTwitterなどのSNSが無い時代です。 多くの男性が「女子ってこんなコト思ってるんだ」と驚き、多くの女性が「ここまで歌って良いんだ」と勇気づけられたはずです。 


このアルバムのリリース後、アラニス自身も急激な成功に悩んだり、インド哲学に傾倒したり、色々あったようです。


そして3年後の1998年、待ちに待ったニューシングル『Thank U』が発表されました。 なんとそのミュージックビデオが一糸まとわぬ素っ裸のアラニスが街に出て、地下鉄に乗り、スーパーマーケットで感謝の気持ちを歌うという衝撃的なブツでした! 


Alanis Morissette - Thank U (OFFICIAL VIDEO)


大人になったボクはその時、こう思いました。

「もう勘弁してください!」と。 


そんなアラニスも結婚をし2児の母となり、今ではマイペースに活動しています。とはいえまだ44歳。結構ハードな人生を送っている彼女ですが、この先どんな表現方法をしてくれるのか非常に楽しみであります。


アラニス・モリセット『ジャグド・リトル・ピル』 

何年経っても色褪せない大名盤です! 




野中 なのか 

コンサート業界勤務です。 

誰か友達になってください。 

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