道島塾長の”VIVA! 80's” -vol.35- /プリンス Part.2

道島です。

いよいよプリンス『オリジナルズ』が発売となりました。おかげさまで発売日より、好調なセールスを記録しています。


その発売日だった6月21日(金)に、秋葉原のONKYO BASEで、「プリンス論」などの著作でも知られるNONA REEVESの西寺郷太さんをゲストに迎え、『オリジナルズ』ハイレゾ全曲視聴とトーク・セッションを行いました。西寺さんはプリンスの音楽に大変お詳しいのはもちろんですが、それとはまた別に、同じミュージシャンだからこそわかる視点をお持ちでした。興味深い話をたくさん聞くことが出来ましたが、特に私が興味深いと思ったのが、アルバムに収録されている以下2曲に関しての、西寺さんの仮説です。それでは、ご一読ください。


「ユーアー・マイ・ラブ」に関して

西寺:この曲を聴いたときに思ったんですが、僕もそうなんですが、仮歌(デモ・テープに入れる見本のヴォーカル)を入れるときに、その歌を渡すシンガーのヴォーカル・スタイルにあわせて仮歌を入れることがあるんですよ。特に同性の場合。例えば僕が鈴木雅之さんをプロデュースさせてもらった時は、普段の自分のキャラクターより出来る限り野太く男らしいスタイルで歌ったりしました。その意味で、この曲は出だしのプリンスの歌い方が少しデフォルメされていて、ケニー・ロジャースをイメージしたように聴こえるんですよね、どうしても。なにより結果的に実際にケニーが歌っているわけですしね。だから、完全に決まっていたわけではないかもしれませんが、曲調、シンプルな歌詞を考えてもある種アメリカの白人保守層に響くカントリー界の大御所、ケニー・ロジャースが歌ってもハマるだろうなと想定して、プリンスは仮歌を入れたんじゃないかと。ちょっと後半照れているようにも聴こえますしね。プリンスとケニー・ロジャース、と言えばまったく真逆、関係性が無いように見えるかもしれないけれど、僕がライオネル・リッチーに直接インタビューした時、プリンスとライオネルは80年代初頭から半ばめちゃくちゃ親しかったし家にも来ていたと、彼が言っていたんですね。そのことを考えると、ライオネルを軸に繋がるんです。この少し前の1980年にライオネルはケニー・ロジャースに全米ナンバーワン・シングル「レイディ」を書いています。それはケニーにとっても最大のヒットになったことを考えると、ライオネルが伝言係になって、ケニー・ロジャースが曲を書いてほしいと言っていたよとプリンスに伝えた可能性もあるかなと。それとこれは全然今思いつきましたけど、プリンスの本名、プリンス・ロジャース・ネルソンなんで、ロジャース同志でシンパシーがあったのかもしれない(笑)。それに黒人音楽家でもラジオやテレビの影響で子供の頃カントリーに親しんでいるってことはあるんですよね、あまり前面には出さないけれど。特にほぼ白人社会のミネアポリスという町では、カントリーがたくさん流れていたり、意外に面白いなとプリンスも思ったのかもしれない。後に「ザ・ファミリー」のセント・ポール・ピーターソンに「ザ・ファミリー」のために書いた、と言ったという説もあるんですが、ソングライターとしては色々状況が変われば、楽曲の最初に作った由来を正直に話せなくなることも多いので。少なくとも「仮歌」が今回正式にリリースされたことからの推測ですね。



「ナッシング・コンペアーズ・トゥ・ユー(愛の哀しみ)」に関して

西寺:ウェンディの双子の妹でプリンスの恋人だったスザンナ・メルヴォワンとの別れがテーマという話もあるし、プリンスの家のお手伝いさんだった女性に対して書かれたという話もありますね。作詞家として、僕がプリンスの音楽にいつも感動するのは、彼が孤独や、愛情を求める歌詞を書くとき、幼い頃家を出たお父さんジョン・L・ネルソンへの切実な少年時代の想いがそこに含まれている気がするからなんです。プリンスが幼い頃、ピアニストだったお父さんが離婚して家を出て行ってしまった。そして、ピアノが家に残されていったと。ジャズ・ピアニストとして憧れていたお父さんジョン・Lが、家を出て行ってしまった時、当然ですがプリンスは本当に悲しくて、その寂しさ、他に代わりなどいない、という想いが多くの人の心を打ったんじゃないかと。だから、この曲はもちろん、スザンナやお手伝いさんのことは大きなきっかけとしてはあったし、君のために書いたよ、と確かに言われた相手はそう信じるだろうし、それは嘘ではないけれど、一緒に暮らしていたかけがえのない人が「家を出てゆく」という根っこの部分に、さらなる普遍的なテーマがあるのかな、と。単純な恋愛した男女のラヴ・ソングではない気がして。母親に虐待されたというシニード・オコナーの琴線に触れて、彼女のカバーによって世界的な大ヒットとなったのも、親子の愛と運命、切っても切れないねじれた感情みたいなもの、その深淵に触れた凄まじい楽曲だからなのかも、と思うんですよね。



いかがでしたか?

私はこんなことは思ってもみなかったので、大変新鮮でした。このようにいろいろなこと想像しながら聴くには、『オリジナルズ』は最高のアルバムです。




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