【インタビュー】デイヴィッド・カヴァデールが語る、ホワイトスネイクのトリロジー・プロジェクト、そしてホワイトスネイクの今後(前編)
デイヴィッド・カヴァデールは現在、『レッド・ホワイト・アンド・ブルース・トリロジー』と銘打たれたホワイトスネイクの新たなプロジェクトに取り組んでおり、その三部作シリーズの第一弾リリース作品にあたる『ザ・ロック・アルバム』はここ日本でも快調な滑り出しをみせている。そしてこの珠玉のロック・ソング集が世に出ることになる約1ヵ月前にあたる5月下旬のある日、新型コロナ禍の影響による混乱のなか、彼は日本のファンのために時間を割き、この新プロジェクトにまつわるさまざまな事実や近況などについて語ってくれた。本来ならば3月に実施されていたはずのジャパン・ツアーは残念ながら中止となり、彼が仲間たちを引き連れて次にこの国に上陸する機会がいつになるのかは今のところわからない。が、この9月で69歳になるカヴァデールは今も精気に満ち、さまざまな将来的プランを抱えている。なお、今回のインタビューでの長いやりとりの一部は、音楽情報サイトBARKS(https://www.barks.jp/news/?id=1000185146)や、7月7日に発売された『ロッキング・オン』誌8月号にも掲載されているので、併せてお楽しみいただければ幸いだ。
インタビュー/本文 増田勇一
――このような状況下に取材に応じていただきありがとうございます。ご家族も含め、皆さんお元気ですか?
デイヴィッド・カヴァデール(以下D):おかげさまでみんな元気だ。日本ツアーを中止せざるを得なくなったのは残念だったけどもね。我々としても日本に行けることをとても楽しみにしていたのに、あの恐ろしいコロナウィルスが全世界を感染させてしまった。本当に心が痛むよ。しかも、ありがたいことに私のまわりでは誰も感染せずに済んでいるが、今現在のアメリカという国はとても病んでいる。他の国と同様にね。悲しいことだ。
――コロナの件ももちろん深刻な問題ですが、あなたご自身がヘルニアの手術を受けるとのニュースもありました。そちらの具合はどうなのでしょうか?
D:懇意にしている医者に「なんということだ。こんなにもひどい両側鼠径ヘルニアは見たことがない」と言われてしまったよ。大きな声を出す時、私は全身を使う。そして、そのたびに酷い痛みがあったんだ。そして結果、主治医は私のビジネス・マネージメントに対し、「彼にツアーは無理だ。ツアーはキャンセルしないといけない」と言い渡した。すると、それから12時間後に世界中が閉鎖され始めたんだ。私を診てくれることになっていた外科医も含めてね。彼はリノ(ネヴァダ州の都市)の公衆衛生局長官なんだが、突然、命に関わらない手術はすべて延期になってしまったというわけさ。そうこうしているうちに、今のようなパンデミックになってしまった。結果、誰もツアーに出られない。せっかく自然界は美しい季節を迎えていて、我が家の庭にもこれまでになかったほど多くの動物が顔を見せるようになっていたりするんだが(笑)、世界は今、危険な状態にある。多くの首長たちのリーダーシップには疑わしいものがあるし、それが事態をさらに悪化させている。多くのリーダーたちは選挙で代償を払うことになるだろうがね。なにしろコロナの影響は世界全体に及んでいる。今はその問題を政治や対立の口実として使うのではなく、みんなでひとつにならねばならない局面にある。日本も、ドイツも、ロシアも、中国も、一丸となって人類を守らねばならない。……それはともかく、本題に入ろうか(笑)。
――ええ。今、何よりも説明していただきたいのは『レッド・ホワイト・アンド・ブルース・トリロジー』と銘打たれたあなたの新しいプロジェクトに関することです。
D:まずホワイトスネイクの旧譜に関し、ワーナー・ブラザーズととても良い契約を交わすことができて、私が今、とてもハッピーだということを伝えておきたい。何年か前にワーナーとまた手を組むようになって以来、4つのボックス・セットをリリースしてきた。だが、ボックス・セットばかり出し続けるわけにはいかない。そして昨年のクリスマス前に新たな契約を交わした際に、サンプラー・アルバムを作るというアイデアを提案したんだが、その時に『レッド・ホワイト・アンド・ブルース・トリロジー』のアイデアを思いついたんだ。知っての通り『ザ・ロック・アルバム』がそのシリーズ最初のリリース作品にあたる。続いて10月にはホワイトスネイクのラヴソング集が出る。素晴らしい作品だ。そしておそらく2月には、ブルーズ・アルバムが出るだろう。“クライング・イン・ザ・レイン”などがそこに入ることになる。7枚のアルバムから抜粋された曲がすべてリミックスされ、見事に磨き上げられた状態でね。
一連のミックスには、クリス・コリアーという若者を迎えた。KORNのようなモダン・ロックを手掛けて人物だが、彼のお父さんがホワイトスネイクの大ファンだったそうだ(笑)。彼は本当に仕事が早くてね。キミは、F1レースは好きかい?
――申し訳ありませんが、あまり興味がありません。
D:そうか。F1レースは素晴らしくセクシーで、音がデカくて、まさにロックンロールと重なるところがある。F1ドライバーは、ロックスターのようなものだ。大規模なグランプリで車の具合が悪くなると、彼らはピットにやって来る。するとその場で4本のタイヤがほんの数マイクロ秒で交換される。そしてドライバーはすぐさまレースに戻り、時速200マイルでぶっ飛ばす。あんな早業には他ではお目にかかれないよ! クリスの作業は、まだにそのタイヤ交換のようなスピードで、私にしてみれば「なんてことだ!」と驚くしかなかった。私はただ「バッキング・ヴォーカルをもう少し上げてくれるかな?」「そこのギター・ソロはもう少し上げて欲しいんだが?」といった他愛のない提案さえすればそれで良かったんだ。素晴らしい、と思ったね。なにしろ彼のスケジュールを3週間押さえてみたところ、1週間足らずでアルバムを完成させてしまったんだから。だから言ったよ。「クリス、素晴らしいよ。他にもやりたいかい?」とね(笑)。
実を言うと、ホワイトスネイクの初期の作品は私のものではないんだ。最初の6枚のアルバムの権利は元のマネージメントが所有していて、私にはどうすることもできない状態にある。私自身が所有した初のアルバムは言うまでもなく『スライド・イット・イン』(1984年)で、同時にあの作品はホワイトスネイクにとって初のプラチナ・アルバムになった。それ以来、私は決して後ろを振り返ることなくやってきたが、『グッド・トゥ・ビー・バッド』(2008年)や『フォーエヴァーモア』(2011年)といった近作に至るまではサウンド面におけるアイデンティティが欠如していたとも思っている。言ってしまえば、自分が出してきた曲でプレイリストを作ろうとすると、音にばらつきがあったんだ。私は、アーティストとしてそこに一貫性を持たせたかったし、私の遺産の一部を時代遅れではないものにしたかった。
――確かにどの作品にも時代性はある程度反映されていたはずですし、プロデューサーの個性というのもあったはずです。ただ、あなたはそこにもっとトータリティを求めたくなったわけですね?
D:そういうことだ。『スライド・イット・イン』の最近のミックスについても同じことがいえる。“ラヴ・エイント・ノー・ストレンジジャー”は微調整してギターをさらに加えたし、“オール・オア・ナッシング”ではジョン・ロードとコージー・パウエルの音量レベルを上げた。『ザ・ロック・アルバム』には『フォーエヴァーモア』からの“テル・ミー・ハウ”も入っているが、これはまったく新鮮で楽しいアレンジになっている。私は、有名な曲のリミックスで生まれ変わるさまを聴くのが好きなんだ。デイヴィッド・ボウイにしろシールにしろ、オリジナルよりもリミックスのほうが好きだったりするくらいだ。ただ、そうしたことがロックの領域内で行なわれることは稀だから、自分がそれをやってやろうじゃないかと考えたんだ。
――名盤の誉れ高い過去あなたの過去の作品のなかにも、ミックスの面で満足できていない部分があるということなんですね?
D:私がどれだけ長い間、これをやってきたのかを考えてみて欲しい。なにしろホワイトスネイクを45~47年間も続けてきたんだからね。アルバムを作るたびに我々はさまざまなテクノロジーを駆使してきた。もちろんその時点では満足できていても、年月を経ていくうちに、それが時代がかったものに感じられたりするようになることがある。なかには、掘り起こされたタイムカプセルから出てきたもののように感じられるものもある。人によっては「そこがいい!」と言うんだろうがね。私は、いわばDJになり損ねた人間なんだ。カセット・テープの発明は画期的だったし、あれは私にはうってつけだった。プレイリストというか、いわゆるミックス・テープを作れるようになったわけだからね。朝はクラシックで目覚め、瞑想音楽からロック、ブルーズ、ジャズに至るまでをムードに合わせて楽しむ――そんなふうにさまざまな曲をカセットに収めたものだ。今ではもちろんiPhoneやiPad、ノート・パソコンにたくさんの音楽が入っている。2テラバイト分はあるだろう。私は大の音楽ファンなんだ。でも、首尾一貫したホワイトスネイクのプレイリストを作るのはとても難しかった。サウンド面での喰い違いがかなりあったからだ。80年代に録音されたもののサウンドは、楽曲の持ち味を損ねてしまっていた。楽曲そのものは素晴らしかったんだがね。そして、90年代にはまたその当時なりのテクノロジーがあった。どれもホワイトスネイクの家であることに変わりはないが、今回のリミックスを経て、新たに美しく塗装が施され、鉢植えが飾られた状態になった(笑)。ただ、それでもホワイトスネイクはホワイトスネイクなんだ。そこが肝心なんだよ。こうしてサウンドに一貫性が感じられることが、このバンドのメイン・ソングライターであり一員である私自身にとって、とても心地好いんだ。だから、こういった作業に時間と資源を惜しまずに取り組んでいこうと心に決めたんだ。その結果が、いずれすべて明らかになる。
健康上の問題なり、何等かの理由でたとえ私がツアーに出られなくなるようなことが今後あったとしても、ワーナー・ブラザーズとともに企画していることはこの先5年は続いていくし、確実にホワイトスネイクの音楽が届けられていく。ワーナー側と一緒に、素晴らしいアイデアを考えているんだ。というわけで、世界がどんな状況になろうとも、デイヴィッド・カヴァデールの音楽を聴きたいと思っている人々のために、私は変わらず音楽を作り続けていくよ。
インタビューの後編はこちら:https://wmlife.themedia.jp/posts/8833959
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