スターダスト☆レビューの、高音質盤☆レビュー【UHQCD盤】
日本のポップス界にその名を刻む、スターダスト☆レビューというバンドが居ます(以下、スタレビと表記させていただきます)。失礼ながら、個人的に縁がある…と勝手に思い込んでいるバンドで、先ずは大学生の頃、4回の学園祭を普通は自校で体験しますが、そのうちの1回でスタレビの学園祭ライヴを観ることが出来ました。大きな体育館で同じ学友たちと大騒ぎしながら観るそのライヴはとにかく楽しい経験でした。彼らの生演奏をその時、初めて観たのですが、一番の驚きはその美しいハーモニーでした。ロック&ポップスのバンドで一番難しいことの一つはハーモニーだというのは、少しでもバンド経験がある方は分かると思います。
当時はカラオケボックスも無く、例えば子供のころから毎週、教会にて大声で歌う経験を積む西洋の方々は羨ましく、日本人はせいぜい小学校の音楽の授業くらい。それはたまたま3人も4人も歌がちゃんと歌えるメンバーがバンドに揃うのは相当の奇跡で、大学にもそんなバンドは居ませんでしたし、プロでもオフコースくらいしか日本では観たことが無かったので、もの凄く感動した記憶が有ります。卒業後から今もずっと音楽業界の片隅で過ごさせていただいておりますが、音楽ライター時代に根本さんの取材を3回くらいやらせていただきましたし、レーベル/レコード会社に在籍していた頃に、たまたま宣伝/販促を担当させていただいたこともありますし、さらに言うと高校時代から今も付き合いのある親友の奥さんが、彼らのライヴをずっと追っかけているくらいの大ファンで…って、それはあんまり縁とは関係ないですね、はい。
世間の多くの音楽ファンは、そんなスタレビのハーモニーの魅力を、84年リリースの4thシングル「夢伝説」で広く知るようになったと思います。Aメロ~Bメロ~主メロ、演奏はもちろん、何と言ってもハーモニーが最も美しく、さらにカッコ良く楽しめる傑作楽曲で、最初に収録されたのは『TO YOU~夢伝説~』というコンピレーションアルバムでした。このテキストのテーマは、実は2018年にリリースされた高音質盤(UHQCD)の功罪みたいなところですので(突然すみません)、ちょっと普通のCDのテイクと高音質盤で、この曲を聴き比べてみました。高音質盤は録音参加楽器種類が圧倒的に多いクラシックの方が、その違いを聴き取り易いのですが、ロック&ポップス音源の場合、シンセサイザーやキーボード、ピアノなど、ダイナミックレンジが広い鍵盤類、それと、何と言っても“残響音” の違いが一番ハッキリと分かり易いと個人的には思っています。
残響音とはアンビエントとも呼ばれる自然な環境(空間)エコーと、電気的に生み出すリバーブエコーとあります。どちらにせよ“そもそも高音質盤って何?意味あんの?”とお思いの方のもっともな疑問に対して、一番“なるほど!”と思っていただける部分かと思います。逆に言うとハイレゾ以外の配信音源、サブスク音源は、私的にはこの残響音が全く不満足で、今も外でもディスクマンを手放せない最大の要因でもあります(最近は電車の中でディスクを入れ替える作業がかなり恥ずかしく…なんて思っていたら、目の前の方がまさかのMDを入れ替えているのを見るにつけ、まだまだいける!とか勝手に思い込みました・笑)。
話しを「夢伝説」に戻しますと、冒頭のシンセサイザーのイントロの“ふくよかさ”からして感じるイメージが違うはずです。音のツブに膨らみ…ファットさがあると申しましょうか。根本さんのヴォーカルが始まる瞬間にシンセで今度はオーケストレーションが被さって来ますが、これもクリアに聴こえます。2番は冒頭から根本さんのヴォーカルのダブルトラックと、1番はサビからだったコーラスワークスもすぐに入ってきて、これも豊かにクリアに聴こえてきます。圧巻は2番のサビ終わりの“♪めぐりあえる日ぃまでぇ~~~~~っ”の根本さんの絶唱部分です。根本さんの白熱のシャウトと、それに応えるエンジニアの秀逸なリバーブのかけ具合が、今回の高音質盤では手に取るように分かります(音ですけど)。
「夢伝説」はもちろんベスト盤(この『TO YOU~夢伝説~』もベストコンピですが…)でも味わえますが、皆さまご存知のようにボーナストラックとして89年のライヴテイクが収められていて、ライヴテイクの聴き比べもできるのでおススメかなと思った次第。
“えぇ~、スタレビのCDは既に欲しいのは全部持ってるよ~”という方、もちろん大勢おられると思います。私の親友の奥さまもそうです・笑。もし実は持っていない1枚が有ればそれからご購入いただくのもきっかけとしては良いでしょうし、一番気に入っていて、何度も聴き返している盤の聴き比べに講じるのも楽しい時間をきっと過ごせるでしょうし、やっぱり便利なベスト盤を贅沢だけど高音質盤で買いなおしておくのも良いと思います。間違いなく言えるのは、その価値が絶対に有る…と、いうことです。私がレコード会社に籍を置いた時に一番感動した一つに、アーカイブ(そのレコード会社が保有する原盤カタログ)をマスターで聴けたことでした。要するにこのマスターに民生判であるCDの音を近づけたくて生まれているのが高音質盤ですので、この世で一番音質が良いのはマスターに他ならないのです。レコード会社で制作にも携わらせていただきました(スタレビではないですが…)。その時感じたのは、マスターはアーティストが魂を、それこそ命がけで刻み込んだ結晶だと思っています。その結晶はレコーディングエンジニア~ミックスエンジニア、さらにマスタリングエンジニアが職人芸の磨きを加えたことで出来上がっています。だからこそファンに方々には、少しでもマスター音源に近い、高音質盤で作品を味わって欲しいと思うのです。
そんなスタレビの高音質盤の中からもう少し個人的な感想を追記させていただくと、86年リリースの初のア・カペラ・アルバム『CHARMING』は楽器が無いわけですから、一番分かり易い気がします。「Sweet Memories」など、まるでメンバーが目の前で歌ってくれているかのようです。88年リリースの9thアルバム『RENDEZ-VOUS』は、冒頭のインストプロローグ「Cinema Bleu」からの「流星物語」もかなり高音質を把握しやすい気がしました。トリオやコンボのジャズもそうですが、エスニックな楽器数の少ない生演奏、そしてシンセサイザー同様にシンセドラムの残響音も、今までのCDとの違いはすぐに気づくでしょう。そういう意味ではその前作『NIGHT SONGS』など、キーボディストの三谷奏弘さんが全面的にアレンジしている時期の作品は全て高音質を味わい易いと言えるかもしれません。まぁ、とりあえず一生聴ける便利なベスト盤『BLUE STARDUST』『RED STARDUST』からお試しいただくのも本当に良いと思います。
最初に“高音質盤の功罪”という言い方をしましたが、普通音質盤を持っているのに高音質盤を入手してしまうと、自宅の棚には同じアルバムが2種並ぶことになります。でも残念ながら普通音質盤を後々聴く機会がまず無くなってしまいます。よって、ただのコレクションとなってしまいます。でも“罪”なんて本当にそれくらいです。山下達郎さんのシングル「クリスマスイブ」なんて、棚に6~7種並んでいます・笑。あ、それはアナザージャケも含めですが…。
最後に、スタレビというのは稀有なバンドで、普通はレコードメーカーを移籍してしまうと、前の所属会社とは無縁になるというか、好き勝手に無理なコンピ盤をリリースされてしまったり、逆にアーカイブを全部新しい契約会社に権利を移してしまって、前の所属会社は廃盤回収(これが結構痛い利益損失につながるんです・汗)の憂き目にあったりもするものなのですが、スタレビは今までリリースしてきた会社がそのままアーカイブとして大切にリリース出来て、周年企画などの時には、かつての所属レコードメーカーから代表担当者が集まり、映画業界でいう製作委員会的なチームを組んで、協同キャンペーンを行います。私もそのメンバーに入ったことがありますが、なかなか他社の担当者さまと仲良く協同作業や意見を出し合ったりする機会は少ないので、とても楽しかったですし(幹事はやはりリアルタイムの契約会社の担当者さんになるので、その方は大変かもですが…)、沢山勉強になりました。これもひとえに、事務所さん、そして今までのレコード会社の方々が、スタレビというアーティストを本当に大切なアーティストとして扱い続けているからだと思いました。そして高音質盤を出せるアーティストは限られています。廉価版ならともかく、製造開発コストが高い高音質盤の再発売でリクープを超えるのは難しいからです。長いキャリアの中で、今も多くのファンに支えられている、ごく一部のアーティストの特権と言っても良いと思います。逆に言えば、高音質盤はそういうアーティストのファンのみに与えられた…いや、勝ち取った特権でもあると言えます。せっかく勝ち取った特権ですから、ぜひ一人でも多くの方に味わっていただければと、切に願う次第であります。
(T-Kawa)
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